【Song Review】Adele "Hello"
アデル、ほぼ5年待ったアルバムからの1stシングル。 万人受けの分かりやすーいフックという訳でもなく(あくまでもアデル内相対的にだが)、シングルにしては尺も長め。 ”「Someone Like You」的シングルをもう一発当てにいく”という最大の誘惑には打ち勝ったと言って良いのかな?
”『25』は知らない間になってしまった自分を知ることについてのアルバム。そして時間がかかってごめんなさい。でもほら、それも人生。” >>https://twitter.com/Adele/status/656787881349009408/photo/1?ref_src=twsrc%5Etfw
【Album Review】Disclosure 『Caracal』(Universal)
今やUKのみならず世界のダンス・ミュージックを牽引することを期待される存在になったローレンス兄弟ことディスクロージャー。2010年代のイギリスが「ハウスの時代」を迎えたのは彼らが着火点。ケムズもアンダーワールドもプロディジーも完全にしくじったアメリカ大陸で「正統派ハウスで覇者となる」というチャレンジを成功させたのも、今やアデルに比肩するポップ・シンガーとなったサム・スミスをフック・アップしたのも彼ら。そして正に今日、彼らはNYのマジソン・スクエア・ガーデンを思いっきり揺らしに行っているはず。
そんな彼らがセカンドをリリースする上で期待されたことは以下の3つに集約されていただろう。
- EDMを凌駕する即効性ばりばりのアゲアゲ路線(EDMでAviciiに正面から勝つ)
- UKアンダーグラウンド・ダンスミュージックのレペゼン(敢えて嫌な言い方をするとインディ・クレディビリティ的なものを保ちつつ、ネクスト・レベルを見せること)
- グローバル・ポップ・アクトとしてのダンス・ミュージック
結果として彼らの選択は3だった。と僕は見ている。そして少し物足りない結果になったとも。レイブもクラヴ・カルチャーも通過していないダンス・ミュージックとしてのEDM(#そういった「カルチャーとしての色」が脱色されてるからこそグローバルに受けたのだろう)と、ハウス、そして原体験としてのUKガラージが間違いなく源流にあるディスクロージャー。ポップの土俵において同じく四つ打ちである両者が勝負して、鮮やかにDisclosureがEDMに引導を渡すのを個人的には期待した(つまり1と3を同時にやってのけること)が、そうはなってくれなかった。
さてアルバムのほうはと言えば、一言で言うと益々ダンス・フロアでなく、スタジアムや巨大なホールが似合う作品。そして次々に招聘した旬なシンガーたちの「歌声」を中心に据え、明確に「聞かせる」>「踊らせる」アルバムになっている。当然のことBPMは120前後から100以下くらいに落とし気味で、「Fire Strarts to Burn」に該当するキラー・トラックは、ない。
集ったシンガーたちは、ザ・ウィークエンド、ロード、ミゲル、盟友クワブス、そしてサム・スミスと同世代を英米幅広く才能を結集させていると言って良いが、その成果は芳しくない。前作における「ラッチ」を超えるアンセムを担うことを期待されるはずの「オーメン」も正直フックが物足りない。
とひたすらネガティブなことを書いているのはアルバムの出来に満足ではないからではあるが、決して悲観はしていない。というのもこれは「次の一手」を一気に狭めてしまうほどの決定的駄作ではないからだ。ポップ・ミュージックの辺境の地=フランスでひたすらハウスに恋い焦がれた青年二人でしかなかったダフト・パンクが20年掛けてアメリカのブラック・ミュージックの芯部と遂に接続したその道のりを4、5年で到達してしまいそうなローレンス兄弟が今置かれているポジションは、今だどんなカードでも切ることが可能な特別な位置だということことに変わりはない。そしてアルバムもセールス的にはそこそこいくに違いない。
この若い兄弟が今得られているポジション/チャンスを使って何を成し得るのか。その答えが出るのはおそらくまだ先。つまり僕らにはまだ楽しみは残されている。嫌味ではなく、そう感じている。
【新・Weekly Music】HYPE MACHINEで見つけた素敵な音楽たち_19
今週のイチオシ
Lewis Del Mar "Wave(s)"
NYからのChet Fakerへの回答?Chetは素晴らしいアルバムをリリースし、久方ぶりにオーストラリアから名を上げたSSWになったけど、このルイス・デル・マールもこの曲レベルをもう幾つか世に出せれば、Chet位の評価はすぐに手にするはず。
今週の次点
Run The Jewels "Rubble Kings Theme (Dynamite)"
長年に渡りNYのアンダーグラウンドヒップホップ・シーンを牽引してきたプロデューサー兼ラッパーEl-P(39歳)と、同郷アトランタのOutkastに見出されたラッパーKiller Mike(39歳)がコンビを組んだのは2012年。今年にはNasが主宰する新レーベル<Mass Appeal Records>からセカンドもリリース。これまた傑作でお遊びかと思ったこのコンビの底力を見せつけてくれます。本曲「Rubble Kings Theme (Dynamite)」はアルバムではなく、〈Mass Appeal Records〉より10月30日にリリースされるドキュメンタリー『Rubble Kings』のサウンドトラックに収録 。
【新・Weekly Music】HYPE MACHINEで見つけた素敵な音楽たち_18
今週のイチオシ
KHAI "Do You Go Up"
ミズーリ出身のトラック・メイカーということ以外大した情報がないこのKHAI。
とても今っぽいダウン・テンポのR&B。ダウナー過ぎず、濃密過ぎずの塩梅は最近だとTom Mischを、過去のアクトだとZero7を思わせる。10月16日は初のEPとなる『IF YOU』をリリース予定。
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今週の次点
Roots Manuva "Don't Breathe Out"
UKヒップホップシーン大御所、ルーツ・マヌーヴァ a.k.a ロドニー・スミスの6作目となる新作『Bleeds』からのトラック。バリー・ホワイト「Honey Please, Can't Ya See」ネタのサンプリングがバズっている本曲「Don't Breathe Out」をルーツ・マヌーヴァ本人は「独創的思想家のためのゴスペル」と表現しています。ブラーのサポート・アクトなど動きが活発なようで、新譜の出来も楽しみ。10月28日リリースとのこと。
Bleeds [帯解説・歌詞対訳 / ボーナストラック2曲収録 / 初回生産盤のみ豪華デジパック仕様 / 国内盤] (BRC485)
- アーティスト: ROOTS MANUVA,ルーツ・マヌーヴァ
- 出版社/メーカー: Beat Records / BIG DADA
- 発売日: 2015/10/28
- メディア: CD
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【上半期ベスト】2015年 上半期 ” 極私的”ベスト・アルバム _ 5位〜1位
5位から1位
5. Florence + The Machine 『How Big, How Blue, How Beautiful』(Island)
“Magnificient(荘厳な)”という言葉は、このフローレンス+ザ・マシーンのためにある言葉と言っても過言ではない。これまでの2作は1曲1曲が濃密すぎるゆえかどこかアルバム全体の統制が取ることに苦労することが多かったが、今回は冒頭3曲の畳みかけるような勢いそのままに最後まで集中力を切らしていない。そして今作はむしろアルバム後半から本作の本質が露わになる。
壮大で教会的なアートポップだけでなく、シンプルでフォーキーさすら漂わせながら独白的なシンガーソングライターとしてのフローレンス・ウェルチがはっきりと姿を現すのだ。むしろ今までのフローレンスに明確な先入観がある人ほど後半から聴いてほしい。遂にキャリア3作目で「傑作」を作ることに成功したと言っていい。ちなみに本作は全英・全米ともに初登場1位を記録している。
<おすすめトラック>
M2. "What a Kind of Man"
M3. "How Big, How Blue, How Beautiful"
M8. "Caught"
4. Tom Misch『Beat Tape2』(Beyond the Groove)
この新たな才能はこれからのイギリスのエレクトロニック・ミュージックを支える存在になるだろう。それが若干19歳のトム・ミッシュというロンドンからやって来た青年。この1年ほど<Hype Machine>を初めずっと注目をされてきた。出す曲出す曲が全くのハズレがない。エレクトロニック・ビートをベースにジャズ、R&Bを巧みに操るその手腕はまさに成熟の域。おそらく今彼がとっているアプローチで突き詰められるクオリティでは既に極みに達していると言っても良いかもしれない。
一介のギター・バンドだったレディオヘッドが大胆なエレクトロニクスと非ロック圏の融合をマスレベルに浸透させたのが2000年。それから英国におけるヒップホップやあらゆるダンス・ミュージックとロック的ソングライティングの積極的な混交は、The XX(というかJamie XX)やJames Blakeといった才能を産んで来たわけだが、そうした歴史を借景としながら瑞々しくこの新たな傑物の才能が輝いているのだと思うと感慨深いものがある。
<おすすめトラック>
M5. "Wake Up This Day"
M11. "Beautiful Escape"
3. Tame Impala『Currents』(Universal)
予想外に現れた次なる「特別な存在」。何年か前のフジロック(だったと思う)で観たときは、「時代錯誤なまでに思いっきりサイケだな。悪くないけど特に良くもない」。そんな感想くらいしか持っていなかったこのテーム・インパーラが、思いっきり化けに化けてしまった。ギター・サウンドすらほとんど姿を消し、ドラムからは生感も消え失せた。ミニマムに反復しながら徐々に変化をして曲のなかへリスナーをいざなうリズム・パート。それはファンク、ディスコ、R&Bを基調にした、時には80年代を大いに感じさせながらも同時に現代的に聞こえる不思議なプロダクション。
様々な音楽を確かに跨ぎながらも「まんま~」には決してならずに、期待しているところよりもずっと良い場所へ連れていってくれる、とでも言おうか。沢山の音楽を聴いている人でも、そうでない人にも喜びを与えられるのは、ケヴィン・パーカー自身が上記に挙げた音楽のいずれにおいても「ネイティブ」でないことも関係しているのかも。欧米メディアで本作に90点未満を与えているところはほとんど見当たらない。『Guardian』誌100点、『Paste』誌94点、『P4K』誌93点、『CoS』誌91点。残念ながら“(日(欧/)米格差ありすぎで)日本では見られなくなるアーティスト”筆頭候補だろう(笑)。兎にも角にもまずは7曲目「The Less I Know The Better」と「Let It Happen」から堪能するのが吉。
<おすすめトラック>
M1. "Let It Happen"
M7. "The Less I Know The Better"
2. Andy Shauf『The Bearer Of Bad News』(Tender Loving Empire)
おそらく30代以降の人でこのアンディ・シャウフの声を聴いた人の多くはElliott Smithを思い出すだろう。繊細過ぎて消え入りそうなのに、同時に強烈な存在感を持つあの声を。カナダのレジーナの自宅にある両親のスタジオにて一人で4年間ひたすら宅録を繰り返しながらその骨格を組み上げ、形にしたのが本作。2015年でリリースされた作品の中で最もダウナーな作品かもしれない。唯一無二のその声と柔らかいタッチのアコースティック・ギター、ドラムとピアノに乗せて、彼が歌うのはあらゆる存在の不確かさとそれへの好奇心とスピリチュアリティについて。この作品についてのレビューはネット上でもあまり見かけないが、<Tiny Music Critic>は、本作から連想するアーティストとして、Aimee MannとElliott Smithを挙げていた。つまり単に僕のツボってことでもある(笑)。
<おすすめトラック>
M1. "Hometown Hero"
M3. "I'm Not Falling Asleep"
M10. "Jerry Was a Clerk"
1. Unknown Mortal Orchestra『Multi Love』(Jagujaguwar)
このUMOもまたテーム・インパーラと同様に突然本作で化けたバンド。テーム・インパーラ同様、ある60-70年代のサイケをかき鳴らしたいだけかと思ってたのに・・・。その実、本作『Multi Love』は完全に懐古趣味の域を出た大躍進の作品だ。サウンド・キャラクターはよりクリアに整理され、圧倒的に見晴らしが良くなった。ひしゃげたドラム・サウンド、ボーカルのポスト・プロダクションの妙味等々実に手の込んだアナログな質感が猛烈に心地良い。「Like Acid Rain」では60年代のファンクを、「The World is Crowded」では70年代のR&B、「Can’t Keep Checking My Phone」では80'sのディスコをと次々に様々な音楽のディメンションを跨ぎながら、いずれをも全くフレッシュに聴かせることに成功している。
インタビューなどを見る限り本作においてこうした変化を誘引した大きな契機があったようには思えないが、シャロン・ヴァン・エッテン擁する<Jagujaguwar>に移籍したことが何か奏功したのだろうか・・・?未だ真相は定かではない。がしかし、『Multi Love』は時代性や批評性というタームからさらりと身をかわしながら2015年にしか鳴らせない音楽を奏でている。必ずや数年後にはテーム・インパーラの『Currents』と対で評価されることになるだろう傑作だ。
<おすすめトラック>
M3. "Ur Life One Night"
M4. "Can't Keep Checking My Phone"
M7. "The World is Crowded"