【年間ベスト】2015年「 極私的」年間ベスト・アルバム _ 前口上
遅ればせながらの2015年ベスト・アルバム
さて毎年恒例遅ればせながらの年間ベストです。
まずいきなりですが、最初に断りを入れておくとこのリストは僕の個人的なテイストの順ではありません。
では何なのか?と言うと、ポップ・ミュージックと接するうえで2015年を振り返ってみたときに可能な限り立体的というか、多様性を持って新たな発見に繋がるであろう「視点」を設けてみようという試みです。先ほど僕個人のテイストとは関係ないと言いましたが、結局「視点」の設定の仕方に僕のテイストや傾向は反映されていることは否めません。
僕が設定した視点を使って音楽に接することで「あ、そんな風に聴いてみると確かに面白いかも。自分が好きなあれってそういうことだったのかも!」と思ったり、願わくば「自分の居場所」が音楽を通じて見つかる人がいるとベストですね。
2015年を捉える5つの視点
なぜなら音楽、特にポップ・ミュージックというアート・フォームには僕らを取り巻く要素のうち”国家・宗教・人種・階級・政治・ジェンダー”のような大文字の、ともすると距離感のあるような仰々しそうなテーマから、”恋愛、友情、ストリート・カルチャー”といった「半径5メートルのリアリティ」と云うべき親近感の強いテーマまでが、今この瞬間だけでなく、歴史的なコンテクストが含め否応無しに織り込まれているものだと思うからです。
そうして織り込まれたコンテクストの中には、聴く人によってジャストなものもあれば、そうでないものもあります。自分を肯定してくれるものもあれば、否定するものもあります。今日ジャストでなくても、来年にはジャストかもしれません。
つまり、音楽は自分が想像だにしなかった自分を知ることだったり、気付きもしなかった「他者」に気付かせてくれる可能性を秘めているということです。それを楽しいと思う人もそうでない人もいるのだと思いますが、少なくとも僕にとってはかなりエキサイティングであると信じていることに間違いはありません。
と真面目に前置いてみましたが、2015年を振り返るときに設定した「視点」は以下の5つになります。
- 「グローバル・ポップ」、ガチンコ勝負の頂上決戦
- 埋もれた日常を掘り起こす想像力としてのフォーク・ミュージック
- リバイバル以後のいいとこ取りハイブリッド音楽としてのR&B
- 絶滅が危惧される”ギター/ベース/ドラム” バンドの生き残り
- ポストEDMとしてのダンス・ミュージック
そして、この6テーマに沿ったアルバムの選出に加えて、2015年という時代とこれから来たる世界を最も的確に射抜いた作品をベスト・アルバムとして紹介しようと思います。つまり今の世界のモード、テロの続発、混乱し、分裂するヨーロッパ、3つの州を除いて銃乱射が発生し、ドナルド・トランプというポピュリズムに踊らされるアメリカであり、「老いて、減っていく人たちと若く、増えていく人たち」の軋轢が世界中で顕在化し始めた今こそ聴くべき作品です。
ではその前にまずは”「グローバル・ポップ」、ガチンコ勝負の頂上決戦”から行きましょう。
【告知】WEBマガジンQeticにOh Wonderへのインタビューが掲載されました!
とても濃いインタビューができました
HypeMachineで出会ってから1年以上が経ちましたが、
ずっとフォローしてきたOh Wonderにようやく念願のインタビューが出来ました!
凄く丁寧で濃い回答を貰えて充実した内容になっています。
単発は良くてもアルバムをハイクオリティで作り上げることが出来ない新人が多い中、
捨て曲なしで素晴らしいデビュー作に仕上げたなと思います。
二人の親密過ぎる会話から「この二人、どんな関係なの?!」と
思いを巡らせながら読んでみて下さい!笑 そして音楽を聴いてみて下さい。
オススメ曲はやはり「Without You」で。
軽く内容をまとめると・・・
インタビュワーとしてインプレッシブだった回答は、以下の3つ。
- ゴールがすごく明確に設定されていて、言語化されていること
- (「ソングライターとしての互いへの評価」の質問に対して)
「具体的な音楽スキル」ではなく「パーソナリティ」や「アティチュード」について互いを評価していること - (「音楽を通して伝えたいこと」について)
発信者としてのメッセージは明確でインターパーソナルに働きかけたい、「コミュニティ」という言葉で表されるなにかしらのユニティを生み出したいという思いが強いこと
という訳で是非、以下読んでみてください〜!!
【DVD Review】"Heaven Adores You ~ A documentary film about Elliott Smith"
この作品はありがちなレジェンドを大仰に振り返ったり、悲劇(エリオット・スミスの死因は断定しきれていないものの恐らく自殺と想定される)にフォーカスしているものではない。
この作品を観て改めて感じたのは、エリオットに近しかった人たちが語るエリオットは僕のイメージの彼そのものだということ。
2001年のフジロック、小雨が降る中グリーンステージが完全に静まり返っていたあの時。皆が息を飲んで彼の演奏に吸い込まれたあの時に観たエリオットと。
あれからたった3年で彼がこの世から居なくなるなんてあの時は思いだにしなかったけれど。
ELLIOTT SMITH - son of sam - YouTube
キャリアの初期から完成の域にあった彼の才能に周りがどんどん惹きつけられていくことで、彼の音楽が日の目を見ることになったことがこの作品で改めて分かる。
Elliott Smith - Roman Candle (from Roman Candle ...
エリオット・スミス、ピート・ヨーン、そして勿論ジョン・ブライオンを育んだ「ラルゴ・パブ」に憧れて03年に実際に行ったときは本当に感動したものだけど、そのたった3、4年前にエリオット自身も初めてラルゴで演奏しにきて、緊張していたんだと思うとなんだか不思議な感じがする。
大仰に功績を称えるわけでも、過度に悲劇的に描くわけでもなくエリオット・スミスという人をアーティストとしてだけでなく、一人の人間として振り返った作品。
一生何度も何度も聴く価値のある彼の作品を改めて聴いてくれる人が増えるといいな、と改めて。
エリオットの曲はどれも大好きだけど、やはりこの「Say Yes」が一番かな。
Elliott Smith Say Yes - YouTube
ヘヴン・アドアーズ・ユー 〜ドキュメンタリー・オブ・エリオット・スミス【日本語字幕付き】 [DVD]
- 出版社/メーカー: SMD jutaku(SME)(D)
- 発売日: 2015/10/21
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【Song Review】Adele "Hello"
アデル、ほぼ5年待ったアルバムからの1stシングル。 万人受けの分かりやすーいフックという訳でもなく(あくまでもアデル内相対的にだが)、シングルにしては尺も長め。 ”「Someone Like You」的シングルをもう一発当てにいく”という最大の誘惑には打ち勝ったと言って良いのかな?
”『25』は知らない間になってしまった自分を知ることについてのアルバム。そして時間がかかってごめんなさい。でもほら、それも人生。” >>https://twitter.com/Adele/status/656787881349009408/photo/1?ref_src=twsrc%5Etfw
【Album Review】Disclosure 『Caracal』(Universal)
今やUKのみならず世界のダンス・ミュージックを牽引することを期待される存在になったローレンス兄弟ことディスクロージャー。2010年代のイギリスが「ハウスの時代」を迎えたのは彼らが着火点。ケムズもアンダーワールドもプロディジーも完全にしくじったアメリカ大陸で「正統派ハウスで覇者となる」というチャレンジを成功させたのも、今やアデルに比肩するポップ・シンガーとなったサム・スミスをフック・アップしたのも彼ら。そして正に今日、彼らはNYのマジソン・スクエア・ガーデンを思いっきり揺らしに行っているはず。
そんな彼らがセカンドをリリースする上で期待されたことは以下の3つに集約されていただろう。
- EDMを凌駕する即効性ばりばりのアゲアゲ路線(EDMでAviciiに正面から勝つ)
- UKアンダーグラウンド・ダンスミュージックのレペゼン(敢えて嫌な言い方をするとインディ・クレディビリティ的なものを保ちつつ、ネクスト・レベルを見せること)
- グローバル・ポップ・アクトとしてのダンス・ミュージック
結果として彼らの選択は3だった。と僕は見ている。そして少し物足りない結果になったとも。レイブもクラヴ・カルチャーも通過していないダンス・ミュージックとしてのEDM(#そういった「カルチャーとしての色」が脱色されてるからこそグローバルに受けたのだろう)と、ハウス、そして原体験としてのUKガラージが間違いなく源流にあるディスクロージャー。ポップの土俵において同じく四つ打ちである両者が勝負して、鮮やかにDisclosureがEDMに引導を渡すのを個人的には期待した(つまり1と3を同時にやってのけること)が、そうはなってくれなかった。
さてアルバムのほうはと言えば、一言で言うと益々ダンス・フロアでなく、スタジアムや巨大なホールが似合う作品。そして次々に招聘した旬なシンガーたちの「歌声」を中心に据え、明確に「聞かせる」>「踊らせる」アルバムになっている。当然のことBPMは120前後から100以下くらいに落とし気味で、「Fire Strarts to Burn」に該当するキラー・トラックは、ない。
集ったシンガーたちは、ザ・ウィークエンド、ロード、ミゲル、盟友クワブス、そしてサム・スミスと同世代を英米幅広く才能を結集させていると言って良いが、その成果は芳しくない。前作における「ラッチ」を超えるアンセムを担うことを期待されるはずの「オーメン」も正直フックが物足りない。
とひたすらネガティブなことを書いているのはアルバムの出来に満足ではないからではあるが、決して悲観はしていない。というのもこれは「次の一手」を一気に狭めてしまうほどの決定的駄作ではないからだ。ポップ・ミュージックの辺境の地=フランスでひたすらハウスに恋い焦がれた青年二人でしかなかったダフト・パンクが20年掛けてアメリカのブラック・ミュージックの芯部と遂に接続したその道のりを4、5年で到達してしまいそうなローレンス兄弟が今置かれているポジションは、今だどんなカードでも切ることが可能な特別な位置だということことに変わりはない。そしてアルバムもセールス的にはそこそこいくに違いない。
この若い兄弟が今得られているポジション/チャンスを使って何を成し得るのか。その答えが出るのはおそらくまだ先。つまり僕らにはまだ楽しみは残されている。嫌味ではなく、そう感じている。