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【Feature】改めて振り返る。今、最もオーセンティックな女性R&Bシンガー、ジェシー・ウエアとは?② _ 「Devotion」編

時流と伝統が巧く融合した"伝統的な"R&B/ソウル・アルバム

ダブステップ以降」を前提としたR&B/ソウル

Devotion

さてさて先週より開始したジェシー・ウエアを振り返りつつ、セカンド・アルバム『Tough Love』までの軌跡を紹介する3回シリーズ(予定)の2回目ということで、今回は2012年にリリースされたデビュー作『Devotion』について振り返ってみる。

時は2012年。2010年のJames Blakeのデビューをきっかけに明確にダブステップ以後」の模索が各所で試みられる中、イギリスでは女性シンガーの台頭が目立っていた頃だった。例えばCharilXCXAluna George辺りの名前を頻繁に見出したのもこの頃。

その特徴は、ダブステップ──あるいはより大雑把に“UKベース”と呼ばれるエレクトロニック・ミュージック全般──のエッセンスを当たり前に吸収したサウンドを持っていたことだ。

ジェシーの場合もそれは例外ではない。というよりは、彼女を支えた制作メンバー陣 ──イギリスのエクスペリメンタル・ロック・トリオ、The Invisibleの中心人物であるデイヴ・オクムと、ブリストルのテックハウス系DJ/プロデューサーでもあるフリオ・バシュモアが主導した──がそうしたサウンドのトレンドを各自なりに消化していたという方が妥当だろう。

とても英国的なブルー・アイド・ソウルとして

ジェシーも図らずとも ──自身もその影響を公言しているアニー・レノックスユーリズミックスがかつてそうだったように──アメリカの伝統的なソウル/R&Bをヨーロッパのエレクトロニック・サウンドのトレンドで加工することで独自のソウル・ミュージックを生み出した、と言っても良いだろう。

これは正にアメリカに憧れを抱きながら、オリジナルなものを作り上げてきたイギリスの過去のポピュラー音楽の「伝統」そのものでもある。そしてそれは激しい嫉妬や単なる懐古的ノスタルジアに足を取られながらもなんとか各時代ごとにリアルタイムなポップ感覚を持ってして再構築し、作り上げてきた歴史でもある。そうした文脈において『Devotion』は、実にオーセンティックな英国的ブルーアイド・ソウルだとも言える。

真っ直ぐなシャーデーアニー・レノックスへのオマージュ

ジェシーは自らへの影響を隠さない。それどころか積極的に参照し、自らの表現の中でそのポップネスやスター性を演じることをとっても楽しんでいる。それが清々しくキュートなところでもある。「音楽=自身のありのままの表現」であることが強迫観念的な意味合いを帯びていた90年代〜00年代前半とは随分と遠くへ来たのだなと改めて思うところだ。

私はシャーデーを崇拝してるから、彼女と比較されるのは本当に光栄!影響は意識的なものよ。このアルバムを録音してる間も、私はたくさん彼女の音楽を聴いていたし。「Running」のヴィデオは完全に「Smooth Operator」へのオマージュ。だから有難いと思うわ。彼女は英国の音楽やソウル・ミュージックを見事に象徴する素晴らしいアーティストだと思うの。本当に光栄よ。だから、そう、私にとっては賛辞なの。(July 2012, Interview from HelloGiggles.com

シャーデーアニー・レノックス、それが私の青春時代のポップ・スター!確かに彼女たちは美しくてグラマラスだったけど、彼女たちはその歌声で支持された。歌姫としてこの上ない最高の存在だったわ。今度は私がスポットライトを浴びる番になった。私もああいうポップ・スターになりたいのよ(笑)(20 November 2012, Interview from Agenda Magazine Blog

とてもイギリスらしく、同時にユニバーサルにポップ

アルバムはまず2曲目でいきなりハイライトを設けている。彼女をワールドワイドで話題に持ち上げたロック風バラッドであり、シングルカットもされている「Wildest Moment」。そして、「Wildest Moment」に続く「Running」は90年代初期のUKソウルの雄、ソウル・II・ソウル「Keep On Movin'」直系のナンバー。


アルバムの冒頭、中頃と良曲を上手く配置しつつモータウン・ライクなシャッフルを聴かせてくれる8曲目「Sweet Talk」(ちなみにPVが最高!!ジェシーとフリオ・バシュモアのチビっ子版が登場し、2人がレコーディングやホーム・コンサートをするというホッコリ系クリップだ。是非チェックしてほしい!!!)からのラスト4曲の素晴らしい流れで全体を見事に締めている完成度の高いアルバムで、全編を通じてとてもポップでもある。

アメリカ攻略はセカンド・アルバムで・・・

多分にイギリスらしさを内包しながら、同時に最新のダンス/エレクトロニック・ミュージックを咀嚼した素晴らしいデビュー作となった『Devotion』。イギリスではいきなり初登場チャート5位、ポーランドでは1位を獲得するなどヨーロッパでは順調にその存在感を広めた。

問題はアメリカだ。かねがねアメリカのアーティストたちと組むのが夢だと語っているジェシー。アメリカ進出に伴い、ザ・ルーツやエイサップ・ロッキーとの共演も果たした。他にもカニエ・ウェストやフランク・オーシャンらとのコラボへの意欲も口にしていたが、R&B/ソウルの本場=アメリカを攻略するのはなかなか一筋縄ではいかないようだ。王道のR&Bにはリアーナのような大本命が鎮座しているため、ディスコ調のトラックをリリースしたりと色々アプローチを試みたが、まだまだアメリカ制覇は遠い。

しかし、ジェシーはアメリカを意識しすぎて自分を見失うことなく、ほぼ丸2年続いたツアーの後、地に足のついたセカンド・アルバムを準備することに成功する。思わず応援したくなる着実な進歩を見せてくれているセカンド・アルバム『Tough Love』については次回のエントリでしっかりと紹介しよう。まずは『Devotion』から堪能して欲しい。

 

 

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