【年間ベスト】2014年「 極私的」年間ベスト・アルバム _ 『Jazzのポップ・ミュージックへの復権?』編
ジャズ、ソウル、R&B、ヒップホップの交差点
「インディーR&B」というフレーズに現れているようにこの数年の欧米のポップ・シーンにおいてデファクト・スタンダードのひとつになりつつあるオーセンティックなソウル/R&Bへの回帰に加え、個人的に感じている潮流はジャズ、ソウル、R&B、そしてヒップホップのクロスオーヴァー現象。
とは言ってもかつてのそれらを丹念になぞり再現するという意味での回帰ではなく、各々の歴史を通過した上でのあくまでもそれらが折衷的に音の中に存在しているという意味においてだ。
このパースペクティブで紹介するのは、Nick Hakim、Whilk & MiskyそしてChet Fakerの3組。どのアクトもインディーR&Bという潮流と接合しながらも、その音の佇まいはずっとダイレクトにジャズの要素を取り入れている。さらに前者2組はボサノバや南米音楽からの影響を隠していない。そして後者のChetについてはそのプロダクションは10年代以降をはっきりと感じさせる。では早速、各々のディスクを見てみよう。
『Jazzのポップ・ミュージックへの復権?』を代表する3枚
Nick Hakim『Where Will We Go Pt. 1』(Earseed Records)
ソウル、ジャズ、R&B。そんな昨今の空気感がまだ終わらないどころか真打ち登場の感すらあるこの男こそNick Hakim、23歳。チリ人とペルー人の両親を持つワシントンDCで生まれ、現在はNY・ブルックリンを拠点にする。彼の音楽を聴いてジェフ・バックリーを想起する人もいるだろう。それくらい特定のカテゴリ/ジャンルを無効にするどこか超然とした佇まいを感じさせる何か。
彼への期待を決定的にしたのは短いイントロを挟んだEPの1曲目――「Cold」だ。「I see her in my hands. I know she’s in my soul. But she left me here trailing. In the coldest of this snow. Cold. She’s never coming back to me」。うっとりするようなイントロ、張り詰めたような緊張感と失意を歌った歌詞をじっくり聴き込んで欲しい。そして最終曲「Pour Another」の極めてジャズ的なテンション・コードとゆったりながら巧みに強弱をつけたドラム。全てが絶品。この味わいは、そう正にジェフ・バックリーの『Grace』を聴いているときに得られるかけがえのない感覚と同じなのだ。
<おすすめトラック>
M2. Nick Hakim - Cold - YouTube
M5. Nick Hakim - Pour Another - YouTube
Chet Faker『Built on Glass』(Future Classic)
今、最も注目すべきレーベルがオーストラリアの<Future Classic>。レーベルの歴史は10年だが遂にピークポイントを迎えたと言ってよいだろう。ここの看板は2枚。FlumeとこのChet Faker。髭面のせいで老けてみえるがまだ若干26歳。そして散々紹介しているHype Machineをきっかけに一気にブレイクしたアーティストでもある。半ばふざけたアーティスト名は自身の尊敬するチェット・ベイカーを文字ったものだが、実際にかなり熱心なジャズ・リスナーだそう。「インディーR&B」というタームと共に紹介されるが、そのサウンドはぐっとトラディショナルなジャズやソウルを下地にしている。但し、サウンドは確実に2010年代以降だと分かるそれだ。Bonobo、Massive Attack, Four Tetが好きという言葉どおりエレクトロニックなサウンド・テクスチャーの作り込みは見事。
本国では見事チャート1位を獲得し、乗りに乗っている。レーベル・メイト=Flumeとは頻繁にコラボ/リミックスを依頼していて正に持ちつ持たれつで互いを高め合っている。Chetの方がいち早くフジロックで来日(PA不調で内容は良くなかったが)、2月も単独来日を果たしているが、実際に日本で受けるのはFlume(イケメンだしね)の方ではないかとも思ったり(笑)。いや、でも凄い良いですからChet Faker。
<おすすめトラック>
M2. Chet Faker - Talk Is Cheap [Official Music Video] - YouTube
M9. Chet Faker - 1998 - YouTube
Whilk & Misky『The First Sip EP』(Cue Dirty Charm Records)
イギリスのトレンド・メイカーDJ=Zane Loweの”Next Hype”にも選ばれたのが、Whilkがサウンド・プロダクションを、MIskyがボーカルを手掛けるロンドンを拠点としたデュオ=Whilk & Miskyだ。おそらく「Milk & Whisky」の各々の1,2文字を入れ替えたのだろうが由来は不明(笑)。彼らが最初にフックアップされたのは「So Good to Me」という Chris Malinchakというアーティストのカバー曲とタイトル通りの手拍子をフィーチャーしたボサっぽいリズム、スパニッシュ風のコード進行を持つ「Clap Your Hands」。
先に紹介した2組と比べるとジャズというエッセンスは大分薄れ、その代わりにエレクトロニック・ソウル/R&Bを素地にしながらボサノバやブルーグラスなどのトラッド/ルーツ・ミュージックとクロスオーバーしながらも最終的にはさらりとポップに聴かせている。そこには「俺がハマりにハマって、学びに学んだ知識とテクニックを分かるかい、君?」みたいな気負いというかエゴは全くない。ただ当たり前にそこには混淆がある。こうした音楽がポップに成立し、衆目を集められるのもMumford&Sonsなどの存在が大きいのかもと思ったり。特にイギリスでは。現在のところフル・アルバムの情報は聴こえてこないが、大器の予感、アリだ。
<おすすめトラック>
M1. Clap Your Hands by Whilk and Misky - Hear the world’s sounds
M9. Babe I'm Yours by Whilk and Misky - Hear the world’s sounds