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【年間ベスト】2014年「 極私的」年間ベスト・アルバム _ 『インディー/ポストR&B、その後』編

インディー/ポストR&Bからの2014年

ゼロ年代の中盤以降、エレクトロニック/ダンス・ミュージックの成果を余すところなく汲み取りながらインターネットという「制約からの解放(制作プロセスの共有やサンプリング・ソースの多様化)」を土台にしてドレイク、ザ・ウィークエンド、フランク・オーシャンといったアーティストを生み出し「オルタナティヴR&B」、「インディーR&Bといったジャンル名を与えられながらその存在感を増してきたことは多くが知るところだろう。トロりと溶けてしまいそうなアンビエントなサウンドとマッチョな価値観とはかけ離れた世界観は様々な領域を侵食しながら、間違いなく従来のR&Bの定義を更新した。その動きは米国のみならず英国においても多くのアクトを生んだ。

そのムーブメントは勢いを落としてきたというよりは、いくつかの動きに分岐してきたように思う。ジェシー・ウェアのようによりオーセンティックなソウルを軸にしながらよりストレートにポップに志向するアクト、ウィークエンドやソンのようにダークなアンビエンスを追求するアクトなど豊かなバリエーションと良質な成果を生んでいると言ってよいだろう。

そして例の90年代R&Bのアイコンにして伝説の男も突然帰還した。トレンドの隆盛から数年を経た2014年、僕が着目したディスクは以下の3枚。

 

「インディー/ポストR&B、その後」を代表する3枚

How To Dress Well『What is this Heart?』(Domino)  

What Is This Heart?

まるでロックと同じように形骸化し、産業化し過ぎたR&Bにおいてもそのオルタナティブとして「インディーR&Bと表されることになった新しい潮流が生まれた。The Weekndやこのトム・クレルことHow to Dress Wellがその先駆けと言われ始めたのは数年前。彼らは皆、初めアノニマスな存在として音源だけを世に届けてきたが、その存在が知られるうちポップ・スターのように記名性を帯びていった。がしかし、傑作『Total Loss』(2012年)から2年ぶりの三作目となるこの『What is this Heart?』でトム・クレルが見せた大胆なあけすけさはそうした衆目の大きさではなく、赤裸々に叫ばずにはいられない何かに突き動かされたに違いない。血を通わす家族との不和を巡る愛と失望、憎しみ、という生々しくパーソナルなエモーションの吐露がこのアルバムを覆っている。だがサウンドはこれまでになく晴れやかである意味満ち足りている。愛・諦念・憎悪、そうした割り切れない感情がない交ぜになったような表情のトム・クレル自身の顔をアップにしたアートワークがその決意を物語っている。この変化に、僕は断然支持だ。

<おすすめトラック>

M5. 「Repeat Pleasure」===> How to Dress Well - Repeat Pleasure (Part 1 of 3 "What Is This Heart?" trilogy) (Official Video) - YouTube

M8. 「Words I don't remember」===> How To Dress Well performing "Words I Don't Remember" Live on KCRW - YouTube 

BANKS『GODDESS』(Harvest)  

Goddess

意外かもしれないがHypeMachine(以下、HM)の2014年Most Blogged ArtistはこのBANKSだった。そしてHMをはじめとしたよりアーリー・アダプター内でのバズから始まり、その圧倒的な美貌もあって一気にメインストリームまで駆け上がったスピード感は昨年のラナ・デル・レイを思わせたりもした。「インディーR&Bの歌姫」として多大なる期待を背負おって、遂に9月にリリースされたデビュー作『GODDESS』は敢えてはっきり言えば決して傑作というわけではない。ソンやTEED、シュローモといったエレクトロニック・ミュージックの時代の旬を余すことなく押さえながら、ティム・アンダーソンら手練れの職人プロデューサー陣営によって手堅くR&Bとエレクトロニック・ミュージックの美しいフュージョンにまとめあげてきたという印象だ。個人的には「Someone New」「Changes」のようなベーシックなバラッドの形式を持ち、ある意味”通俗的”にエモーショナルな楽曲にこそ彼女の飛躍のカギはあると感じる。そしてファレルやミッシー(・エリオット)と仕事をしたいというそのヤマッ気は突き詰めるのが吉だろう。リアーナテイラー・スウィフトとポップネスにおいて肩を並び立つ気概で、インディーR&BではなくメインストリームのR&Bのメインアクトまで化けることを期待したい。

<おすすめトラック>

M10. 「Begging for Thread」==>BANKS - Beggin For Thread (Official Music Video) - YouTube

M11. 「Changes」==> BANKS - Change (Live Acoustic Version) - YouTube

M12. 「Someone New」==> BANKS – Someone New ( Goddess ) - YouTube

D’Angelo and The Vanguard『Black Messiah』(RCA)

Black Messiah

愛聴しているPhoenixの2004年のセカンドAlphabeticalに際してメンバーがディアンジェロのプロダクションに影響された」(うろ覚えだがw)という発言を目にしてディアンジェロVoodooを聴き、その凄まじさに打ちのめされたという邪道(?)な入り方をしているので、その長きブランクに対して大した思い入れがあるわけじゃないものの、これはたまげた。徹底したアナログ録音による賜物なのかその艶やかな音、そしてシーンやら何やらとは完全に隔絶したその佇まいに。R&B回帰やらがどれだけ盛り上がっていても、そこにディアンジェロのフォロワーというか後継者は見当たらない。

今もこれまでも。ブルーズ、ゴスペル、ソウル、ファンク、ヒップホップ、ジャズとブラック・ミュージックの歴史の因子を確実に孕みながら10年前でも、10年後に作られたとしても違和感がない超然としたその鳴りはある意味異様だ。これはくるりの『 PIER』と共振するところかもしれない。昨今「R&B」というタグが振られている音楽とは余りにも一線を画している。

また本作は「ポリティカル」な側面もよく言及されるところだが、僕がこの作品を気に入っているのは今のところストレートなラブ・ソング・アルバムに聴こえるところでもある。

 

<おすすめトラック> 

M2. 「1000 Deaths」==> D'Angelo and The Vanguard - 1000 Deaths - YouTube

M4. 「Sugah Daddy」==> D'Angelo and The Vanguard - Sugah Daddy - YouTube

 


【年間ベスト】2014年「 極私的」年間ベスト・アルバム _ 前口上 - mr.novemberのブログ

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