mr.novemberのブログ

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【年間ベスト】2015年「 極私的」年間ベスト・アルバム _ 『埋もれた日常を掘り起こす想像力としてのフォーク・ミュージック』編

埋もれた日常を掘り起こす想像力

ここで紹介する二組はグローバル・ポップで紹介した面々や、アデルのような最先端のプロダクションの凄みはありません。そしてラブ・ソング、とりわけ失恋という形式というユニバーサル・ランゲージを分かりやすく採用してくれているわけでもありません。

彼らの紹介する音楽は、極めてパーソナルな日常、そして感情の振れ幅が大きいモチーフではなく、いつだって見過ごされ、フォーカスされることなんてなさそうな些細な事象や感情に目を向け、掬い取ってみることで新たな景色を浮かび上がらせる音楽です。それは正にフォーク・ミュージックの本質でもあり、脈々と受け継がれてきたものでもあります。

また音響面においても「アコギをポロリと爪弾くだけ」というフォークという単語で連想するステレオタイプなイメージからは実は程遠いということも忘れないでください。00年代以降の様々な音楽的な実りを取り込みながら、音響的なレイヤーのバラエティを増やしてきた現在のフォーク・ミュージックとはいかなるものか?という視点でも聴いてみることも是非オススメします。

・Sufjan Stevens 『Carrie & Lowell」

キャリー・アンド・ローウェル
フォーク・ミュージック。それはポロポロとアコギを奏でながら素朴なメロディを歌う・・・。そんなステレオタイプなシンガー・ソングライター像を更新したことはスフィアンのアーティストとしての大きな功績の一つだ。圧倒的な音響的な豊かさ ーーアコースティックな響きを中心に据えつつも、エレクトロニクスやリズムにおける繊細な工夫は集大成的でもあるーー はどう考えても00年代以降でしか有り得ないものだ。
そして彼のもう一つの功績とは、「想像力の重要性」を改めて提示している点だ。外的であれ、内的であれ個人にもたらされた衝撃への処方箋/衝撃緩衝材としての想像力の重要性。スフィアンは継父という絶対的な他者である存在や疎遠だった実母との不安定な生活をモチーフに、現実から一旦距離を置きつつも、想像の中で改めて対象を理解し寄り添おうと努めている。そして不安定な家族という極めてパーソナルなモチーフを扱いながらも「他者との折り合い・共生」を巡る異民族が入り混じることで出来上がった国=アメリカの葛藤、矛盾や罪を図らずも照射してしまうのは彼のアーティストとしての業なのだろうか。
音楽という些細な想像力という杖が人をどこまで支えられるのか?という問いに確信を持てないながらも、まだかすかに希望が感じられる。そんな作品だ。

Carrie & Lowell

Carrie & Lowell

 

 

・Andy Shauf 『The Bearer of Bad News」

The Bearer of Bad News

上半期ベストでも2位に選んだAndy Shauf。2008年にデビュー作をリリースした後、カナダにある両親の自宅ガレージで4年を掛けじっくり温めてきた本作品はギター、クラリネットやストリングスといった楽器の音色を繊細に扱いまとめ上げる技術において既に洗練の域に達していることを明確に示している。

そしてこのAndy Shaufもまたスフィアンと同様、誰もが見過ごす日常の些細な何気ない瞬間、感情のひだに気付き、すくい上げることが出来る作家だ。

眠ることができずにひたすら思考が逡巡する夜(「I’m Not Falling Asleep」)や、人の強欲さ(「You’re Out Wasting」)、友人の妻との不倫(「Wendell Walker」)といった日常に潜むダークサイド、感情のパンドラの箱を様々な登場人物の視点から解き放ちつつ物語を語っていく。その有様まるで「音楽では到達できないところに音楽で火を灯す」、そんな試みに映る。新たなストーリー・テラーの登場である。

The Bearer of Bad News

The Bearer of Bad News

 

 

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