【上半期ベスト】2015年 上半期 ” 極私的”ベスト・アルバム _ 5位〜1位
5位から1位
5. Florence + The Machine 『How Big, How Blue, How Beautiful』(Island)
“Magnificient(荘厳な)”という言葉は、このフローレンス+ザ・マシーンのためにある言葉と言っても過言ではない。これまでの2作は1曲1曲が濃密すぎるゆえかどこかアルバム全体の統制が取ることに苦労することが多かったが、今回は冒頭3曲の畳みかけるような勢いそのままに最後まで集中力を切らしていない。そして今作はむしろアルバム後半から本作の本質が露わになる。
壮大で教会的なアートポップだけでなく、シンプルでフォーキーさすら漂わせながら独白的なシンガーソングライターとしてのフローレンス・ウェルチがはっきりと姿を現すのだ。むしろ今までのフローレンスに明確な先入観がある人ほど後半から聴いてほしい。遂にキャリア3作目で「傑作」を作ることに成功したと言っていい。ちなみに本作は全英・全米ともに初登場1位を記録している。
<おすすめトラック>
M2. "What a Kind of Man"
M3. "How Big, How Blue, How Beautiful"
M8. "Caught"
4. Tom Misch『Beat Tape2』(Beyond the Groove)
この新たな才能はこれからのイギリスのエレクトロニック・ミュージックを支える存在になるだろう。それが若干19歳のトム・ミッシュというロンドンからやって来た青年。この1年ほど<Hype Machine>を初めずっと注目をされてきた。出す曲出す曲が全くのハズレがない。エレクトロニック・ビートをベースにジャズ、R&Bを巧みに操るその手腕はまさに成熟の域。おそらく今彼がとっているアプローチで突き詰められるクオリティでは既に極みに達していると言っても良いかもしれない。
一介のギター・バンドだったレディオヘッドが大胆なエレクトロニクスと非ロック圏の融合をマスレベルに浸透させたのが2000年。それから英国におけるヒップホップやあらゆるダンス・ミュージックとロック的ソングライティングの積極的な混交は、The XX(というかJamie XX)やJames Blakeといった才能を産んで来たわけだが、そうした歴史を借景としながら瑞々しくこの新たな傑物の才能が輝いているのだと思うと感慨深いものがある。
<おすすめトラック>
M5. "Wake Up This Day"
M11. "Beautiful Escape"
3. Tame Impala『Currents』(Universal)
予想外に現れた次なる「特別な存在」。何年か前のフジロック(だったと思う)で観たときは、「時代錯誤なまでに思いっきりサイケだな。悪くないけど特に良くもない」。そんな感想くらいしか持っていなかったこのテーム・インパーラが、思いっきり化けに化けてしまった。ギター・サウンドすらほとんど姿を消し、ドラムからは生感も消え失せた。ミニマムに反復しながら徐々に変化をして曲のなかへリスナーをいざなうリズム・パート。それはファンク、ディスコ、R&Bを基調にした、時には80年代を大いに感じさせながらも同時に現代的に聞こえる不思議なプロダクション。
様々な音楽を確かに跨ぎながらも「まんま~」には決してならずに、期待しているところよりもずっと良い場所へ連れていってくれる、とでも言おうか。沢山の音楽を聴いている人でも、そうでない人にも喜びを与えられるのは、ケヴィン・パーカー自身が上記に挙げた音楽のいずれにおいても「ネイティブ」でないことも関係しているのかも。欧米メディアで本作に90点未満を与えているところはほとんど見当たらない。『Guardian』誌100点、『Paste』誌94点、『P4K』誌93点、『CoS』誌91点。残念ながら“(日(欧/)米格差ありすぎで)日本では見られなくなるアーティスト”筆頭候補だろう(笑)。兎にも角にもまずは7曲目「The Less I Know The Better」と「Let It Happen」から堪能するのが吉。
<おすすめトラック>
M1. "Let It Happen"
M7. "The Less I Know The Better"
2. Andy Shauf『The Bearer Of Bad News』(Tender Loving Empire)
おそらく30代以降の人でこのアンディ・シャウフの声を聴いた人の多くはElliott Smithを思い出すだろう。繊細過ぎて消え入りそうなのに、同時に強烈な存在感を持つあの声を。カナダのレジーナの自宅にある両親のスタジオにて一人で4年間ひたすら宅録を繰り返しながらその骨格を組み上げ、形にしたのが本作。2015年でリリースされた作品の中で最もダウナーな作品かもしれない。唯一無二のその声と柔らかいタッチのアコースティック・ギター、ドラムとピアノに乗せて、彼が歌うのはあらゆる存在の不確かさとそれへの好奇心とスピリチュアリティについて。この作品についてのレビューはネット上でもあまり見かけないが、<Tiny Music Critic>は、本作から連想するアーティストとして、Aimee MannとElliott Smithを挙げていた。つまり単に僕のツボってことでもある(笑)。
<おすすめトラック>
M1. "Hometown Hero"
M3. "I'm Not Falling Asleep"
M10. "Jerry Was a Clerk"
1. Unknown Mortal Orchestra『Multi Love』(Jagujaguwar)
このUMOもまたテーム・インパーラと同様に突然本作で化けたバンド。テーム・インパーラ同様、ある60-70年代のサイケをかき鳴らしたいだけかと思ってたのに・・・。その実、本作『Multi Love』は完全に懐古趣味の域を出た大躍進の作品だ。サウンド・キャラクターはよりクリアに整理され、圧倒的に見晴らしが良くなった。ひしゃげたドラム・サウンド、ボーカルのポスト・プロダクションの妙味等々実に手の込んだアナログな質感が猛烈に心地良い。「Like Acid Rain」では60年代のファンクを、「The World is Crowded」では70年代のR&B、「Can’t Keep Checking My Phone」では80'sのディスコをと次々に様々な音楽のディメンションを跨ぎながら、いずれをも全くフレッシュに聴かせることに成功している。
インタビューなどを見る限り本作においてこうした変化を誘引した大きな契機があったようには思えないが、シャロン・ヴァン・エッテン擁する<Jagujaguwar>に移籍したことが何か奏功したのだろうか・・・?未だ真相は定かではない。がしかし、『Multi Love』は時代性や批評性というタームからさらりと身をかわしながら2015年にしか鳴らせない音楽を奏でている。必ずや数年後にはテーム・インパーラの『Currents』と対で評価されることになるだろう傑作だ。
<おすすめトラック>
M3. "Ur Life One Night"
M4. "Can't Keep Checking My Phone"
M7. "The World is Crowded"