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【楽曲分析_試行】Nick Hakim - Cold

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Nick Hakimのルーツである音楽のエッセンスを律儀に盛り込んだ曲だ。そのルーツとはジャズ、ソウル、そしてゴスペル。でも全体の音飾的な味付けは極めて今っぽくゼロ年代以降の音楽をたくさん通過してきたことがわかる。

 

楽曲は、BPM60台半ばのゆったりとしたテンポで進む。裏拍に重きをおいたレイドバックしたリズムを刻みながら、Dナチュラル・マイナースケールのメロディを7thを多用したジャジーなコードが支える。

 

ヴァースはサブ・ドミナントからドミナントにもトニックにも帰らず、フラフラした調性感を漂わせる。まるでもう二度と戻ってこないあの子への未練を断ち切れない歌詞そのものだ。

 

 続くコーラスはFから始まることで視界が開けたかのような明るさを一瞬見せる。
そう、まるで去ってしまった彼女への想いを断ち切るかのように。


でも結局、想いを断ち切ることは出来はしない。なし崩しな自分を半音ずつ4回も下っていくコーラスのラストで表現しているかのよう。コーラスに置いてもトニックであるDm7には回帰せず、サブ・ドミナントで曖昧な終わり方をしている。
そもそもこの曲はロマン派的なまでにサブ・ドミナントが多用されている。

 

圧巻はラスト。Fのコードに乗りながら、ゴスペル、ドゥ・ワップ、ソウルといいったカラード(米における有色人種)、そしておそらくキリスト教徒としてのルーツ・オーセンティシティをはっきりと垣間見せているのだ。

クワイア的なコーラス、教会で録音したような音響。Fコードに乗るフレーズは完全五度が半音下がったノート、つまりブルーノートを奏でている。こうして福音的な趣を持つラストは、うまくいかない日常/うまくいかない恋を洗い流すように明日への希望を示す。

 

ジャズの形式を借用しつつ、都会的でモダンな音像ながら、ルーツ・ミュージックへの敬愛がしっかり伺えるNick Hakimという人間のアーティストとしてのアイデンティティがよく現れた名刺代わりの一曲。

 
▼Nick Hakimが現在リリースしている2枚のEPをコンパイルしたアナログ版▼

Where Will We Go Pt 1 & 2 [12 inch Analog]

Where Will We Go Pt 1 & 2 [12 inch Analog]

 

 

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