mr.novemberのブログ

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【Feature】改めて振り返る。今、最もオーセンティックな女性R&Bシンガー、ジェシー・ウエアとは?③ _ 「Tough Love」編

『ブリット・ポップ』というタームを更新する力作『Tough Love』

やはり消耗を要した長い『Devotion』ツアー

ジェシーデビュー・アルバム『Devotion』はこれまでに少し触れたように結果として高い評価を得て、2012年の最も絶賛されたアルバムの一枚になった。 あのPitckforkも好意的だったし、最も信頼に足る音楽賞でもあるMecury Prizeにもノミネートされた。評判と共にファンベースは拡大し、世界中で熱狂的ファンがついた。つまりそれは常にツアーで世界を飛び回ることを意味する。ツアーは結果として2012年から2014年初頭まで続いた。よくある話だがジェシーもツアーでエネルギーを激しく消耗し、新しい作品の為に休息を取る必要があった。

”本当に厳しいツアー・スケジュールが続いて、エネルギーが少しも残っていなかった”公式ページ:バイオグラフィ

そして、彼女はNYで数週間の休暇を取ることにした。そしてその時にアルバムのタイトル・トラックになる「Tough Love」を書くことになった。惹かれ合うことが必ずしも幸せな恋愛に繋がるとは限らないという思いを歌った曲だ。

結婚という人生の節目と新作『Tough Love』

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(結婚式は2014年の8月にギリシアで行われた。いい顔してる!!)

実はジェシーの人生にはデビュー作『Devotion』の成功以外にも大きな変化が起きていた。結婚だ。相手は幼い頃からの幼馴染みだったサム・バロウズという人。(2人は1996年(2人共11歳の時)に地元のスイミング・チームで出会ったそう!)結婚という大きな人生の転機とセカンド・アルバムについてジェシー自身はこんな風に語っている。

”婚約もしたし、初めての経験をいっぱいした。アルバムにそういったことも書かれているけど、それでもやっぱりファースト・アルバムと同じく報われない愛をテーマにしたかった。殆どが自分の過去の経験から書かれたもので、そうするこ とによって私の中の邪悪なものが浄化されていく。その日にふと思い付いて書いた曲だと思っていても、後から考えるとある男の子やある時期のことについて書 かれていることに気付く。だから幸せな奥さんになる前にこうした過去をすべて吐き出したい気持ちがあった。”公式ページ:バイオグラフィ

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(旦那さんのサムとジェシー

ップ最前線を張る制作布陣

新作『Tough Love』デイブ・オクムなど1stと同じメンバーに加え、新しい制作布陣で臨んだ作品だ。エグゼクティヴ・プロ デューサーとしてジェシーの所属する<PMR>のレーベル仲間であるTwo Inch Punchと、ケイティ・ペリーMaroon5(「Moves Like Jagger」は彼の手による)を手掛けた売れっ子プロデューサーでもある米国人、ベニー・ブランコから成るBenZellというプロダクション・チームが迎えられた。 デビュー作と同様正に「誰と仕事をすべきか」が極めて的確なスタッフ構成だと言える。

確かな自信が漲るボーカル

『Devotion』と比べてまず耳につくのはボーカルだろう。上品なシンセを特徴に、サウンドとボーカルが等価に置かれていたデビュー作に対し、新作ではボーカルはより前景にせり出し、その声は自分に確かな自信と誇りを持ったもののそれである。ジェシーもこう語っている。

"今は自分に自信がついたし、アルバムからもそれは伝わってくると思うわ。ボーカルの届け方ももっと前面に出しているし。シンガーという仕事は最高の仕事で、それ は今では確実に私の仕事となっている。" 公式ページ:バイオグラフィ

アルバムの中でとにかく素晴らしいのは、疾走感のある軽快なポップ・ソングである「You&I(Forever)」「Champagne Kisses」で、双方とも米R&B界の新星・ミゲルとのコラボ曲でもある。「You&I」についてジェシーはこんな風に語っている。

"なかなかプロポーズをしてくれない彼氏への不満を歌っているの。お互いに結婚するまで長かった。永遠に感じるぐらい長いこと付き合っているの。まるでオートバイに乗っているかのような曲にしたかっ た。高速で切なる思いいっぱいで走っている感じでね。" 公式ページ:バイオグラフィ

 『Champagne Kisses』は、個人的には1stからの飛躍を一番感じさせる佳曲でコーラスに入るときの昂揚感がタマらない。ジェシーロールモデルであるシャーデーの2000年リリースの名作『Lover's Rockの影響を強く想起させる曲でもある。遊び心も満点でコーラス・パートには実際のキスの音を散りばめている。(よく聴いてみるとしっかり聴きとることができます!)


Jessie Ware - Champagne Kisses ( Tough Love ...

明確なポップネスの追求

アルバムのディレクションを指揮したベニー・ブランコは過去に共に仕事をしたエド・シーランジェシーのコラボレーションを強く希望していたそう。この意図にも本作でジェシーを単なる「R&B/ソウル」の枠に留めておかないという思いを感じても良いかもしれない。しかし今や超売れっ子のエドの忙しいスケジュールの中でコラボを実現することは難しかった。しかしそんなある夜、偶然が訪れる。

"偶然エドもサタデー・ナイト・ライブの収録のためにニューヨークに来ていて、一緒に曲を作ることができたの。彼が会いに来てくれて、 二人でホールフーズ・マーケットでサラダを買って、それからベニーのマンションへ行ってギターで一緒に曲を書いたわ。30分ぐらいで書き上げちゃった。 「Say You Love Me」という曲で、絶対にアルバムに収録すると決めていた。 "公式ページ:バイオグラフィ

この「Say You Love Me」は、落ち着いたテンポと艶やかなアコースティック・ギターストローク、そして何よりも力強いコーラスを備えたバラッドで、同じ方向性を持つ前作の「Wildest Moment」よりももう一歩深化を見せたと言って良いだろう。BANKSもカバーしていたLauryn Hillの「Ex Factor」をキッチュにしたような「Keep On Lying」は、過去の音楽の影響を感じさせながらもビートとシンセのサウンドは間違いなく「2010年以降」を感じさせてくれる曲。また「Want Your Feeling」のディスコ・テイストもアメリカ・ツアー中から始めていた試みの一つの成果と見て良い。

「ブリット・ポップ」を更新する存在になるか

Tough Love (Deluxe)

アルバム『Tough Love』はデビュー作『Devotion』と比べると良い意味で「R&B/ソウル」を下地にしながらも、ストレートにポップさを獲得したと同時にジェシー自身のキャラクター(クラスのマドンナではないけど、皆に人気があるチャキチャキした姉御肌的な?)がより前に出てきた親密度の高いアルバムになった。またアルバム内の各曲は大半が3分半以内に収まっていて、非常にコンパクトなのも良い。R&B/ソウルというルーツに忠実ながらポップさを増幅し、それでいながら単なるアダルト・コンテポラリー的な退屈なスムースさに陥らないという難しい所業をジェシーと制作スタッフは成し遂げたと言える。

そして、この作品はチャートにどっしりと居座る準備が出来たアルバムでもあると感じる。 このアルバムが持つポップとしての力強さはもしかしたら既に古の言葉となった「ブリット・ポップ」という歯車をもう一度回し始めてしまう可能性すら秘めている。そんな大げさな物言いをしたくなる作品だ。

 

振り返ってみて・・・

今回は3回にわたってジェシー・ウエアのデビューから新作までを振り返ってみた。紙媒体に比べて、WEBメディアがバイラルとの親和性が高いコンテンツやスナップショット的なコンテンツ作りに寄りがちな部分があると感じていたので、しっかり時系列で一人のアーティストをヘビーになり過ぎずに紹介するという試みにチャレンジしてみました。ブログで出来ることには限界もあるものの、こういう形にはもう少し色々挑戦したいなと思ってます。

 

 

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