【新・Weekly Music】HYPE MACHINEで見つけた素敵な音楽たち_15
今週のイチオシ
Andy Shauf "I'm Not Falling Asleep"
『Either/or』の頃のElliot Smithのあのヴァイヴを想起させるカナダのシンガーソングライター、Andy Shauf。エリオットだけでなく、正統派バカラッキアンからPaul Simon、またそれらの系譜にあるよりコンテポラリーなアーティストであるA Girl Called Eddyなどを愛する人も必ず気にいるはず。 地元カナダはレジーナの自宅で丁寧に織り込まれたさりげなく美しい音のテクスチャーを感じて欲しい。
今週の次点
Alabama Shakes "Don't Wanna Fight"
も日うすぐ発売される新作『Sound & Color』を一足先に聴きましたが、出来はマジで最高。2015年にこれより良いロック・アルバムを出すのはかなりシンドそうなくらい。プロデューサーは、Lana Del ReyからConor Oberstまで手がけ、HAIMのダニエルの元彼でもあったBlake Millsを選んだ。アルバムは4月21日のリリース。
【Live Report】ブルーボトルコーヒーとホステス・クラブ・ウィークエンダー
10回目の節目開催
ちょうど10回目の節目を迎えたホステス・クラブ・ウィークエンダー(以下、HCWとする)。 St.Vincentのグラミー効果なのか、ベルセバ効果なのかは未だ解せないものの、2日に渡って新木場スタジオコーストは超満員の賑わい。
と同時に同じ形態で10回の開催を経たことでいちオーディエンスとしては、正直マンネリ感を感じ始めたのも事実。ある種ラインナップが誰であろうと一定の顧客基盤を作ったと同時に今とコンセプトを変えずにこれ以上のスケールを安定して実現するのも難しいだろうし、持ち球的にもボチボチ同じアクトのローテーションが始まって段々ジリ貧に・・・なんていうシナリオも有り得るんじゃないかなーというネガティブな懸念がまずある。
それに加えて毎度次回開催のアナウンスがされるのが慣習だったが、今回は一切次回開催に関するアナウンスはなし。「10回を節目に一旦お休みでは?」という憶測もまことしやかに流れるなか、どうせなので仮にここで仕切り直すのだとしたら「HCWをこんな風にして欲しい!」という理想の姿を考えてみることにした。
Money Treeと先行投資の2本立て
先に結論から言ってしまうと
- Money Tree:より大規模(5千〜1万)の集客を目指す(SWSX的カンファ込の)複合イベント」
- 先行投資:ストイックに公式リリース前のアクトも含め欧米の最新を切り取ったピュアな音楽イベント(今のHCWのアクトをもっと無名アクトに寄せるイメージ)
の2本立て。 前者でスポンサード含め収益をきっちり上げ、よりリスキーでチャレンジングな後者に投資をしたいところ。 固定費の効率を考慮すると、同日にこの2種のイベントが近いロケーションで催される方が良いのだろう。(それこそEbisu Music Weekender的な感じでも)
”ブルーボトル・コーヒー”クラスタとHCW
そもそもどこからこのアイデアの着想を得たかというと、それは以下のツイート。
HCWの客ってブルーボトルコーヒーに並んでそうな人ばっかだなーw
— dai_no14 (@DaiNo14) 2015, 2月 22
「確かにブルーボトルコーヒー行きそうなクラスタとHCWクラスタってある程度被ってるし、親和性あるな。でも前者のクラスタのボリュームが圧倒的に大きいけど、実際そこまでpetetrate出来てないだろう」っていう肌感が「HCWはこれ以上スケールするにはどうしたらいいんだろ?」っていう問いにマッチしたという訳。
つまり、仮想”ブルーボトルコーヒー・クラスタ”をもっと巧いこと取り込むことができれば、今以上の規模と収益性を得られる可能性が何となくありそうだなと。 そして、仮にそこからの利益を未だ知られてない音楽と出会ってもらうことに投資できれば今よりもっと面白いイベントになるんじゃないかなと。
つまるところ、夏の大型野外フェスにはないHCWへの期待として、
- より高い頻度で海外の新しい音楽をまとめて手頃な価格で体験できる場
- 海外の音楽を一定以上の熱心さで自発的に開拓するクラスタ以外へも可能な限り広くリーチできる場
の2つがあるとしたら、やはり両者はある種トレードオフな部分もある。 現に今のHCWがこれ以上の規模を目指せば必然的に前者の比重は落ちてくるだろう。 だったらそのジレンマを解消すべく、パキッと「スケールと収益性を実現するイベント」と「先行投資イベント」に分けちゃえばいいのにという極めて単純な発想です。
まず”ブルーボトルコーヒー(「Money Tree」)”イベントはどうあるべきか?
- ターゲット:言うまでもなく「ブルーボトルコーヒー層」。年齢層は20-50代まで幅広そう。ここからは偏見丸出しだが『WIRED』とどこかの広告代理店の取り組みが奏功したおかげか(妄想です。笑)そこそこの収入と文化資本があるクラスタのはずだ。そうは言ってもこのクラスタも特別音楽にストイックなわけでも、実際ライブや音源にさほど資金を投下してるわけでは決してないのが現実だろう。つまり今のHCWではこのクラスタのマジョリティを呼ぶにはストイックすぎるし、クローズドすぎる。
- コンテンツ:まず音楽について。このクラスタが反応しそうな知名度や話題性のある「分かりやすい」アクトはどうしても必要。 今だったらサム・スミスあたりだろうか。 あとはファレルとかも刺さりそうだが、今のファレルだとちょっと人を呼べ過ぎちゃうかも。 この辺りのセレクトの塩梅は日本だとそもそも難しい&英米とのギャップがどんどん大きくなっているので、メディアとしっかりコンテクスト・メイクすることが必須。(それこそWIREDがうまくやっていたように)。
次にイベントの「場」自体のデザイン。今のHCWはとにかくサクッと一日で出来る限り多くのアクトを見てもらうってことだけにフォーカスしてるので、基本音楽以外のコンテンツは無に等しい。ブルーボトルコーヒー層を取るにはこれでは無理。食、ファッション、そしてWIREDやGQ、NewsPicks層とかと親和性が高そうなBiz/Yech寄りのコンテンツ(それこそSXSW的にね)もトークショー、カンファレンスなどを散りばめつつエエ感じにしないと音楽だけでは間違いなく続かない。
そしてロケーション。あの異常なまでに居心地の悪いスタジオ・コースト(単独公演なら構わないが、半日居るのはキツ過ぎ)を捨て、別のロケーションで空間設計からしっかりやるべきだろう。 キャパは5千~1万を想定。
と同時にターゲット層を見据えたコンテンツ集めだけが問題ではない。音楽以外のコンテンツと音楽自体をどう提示するかのコンテクストもメディアと一緒に戦略的かつ継続的に作っていくことが必須。それはイベント前後のPR的コミュニケーションだけでは絶対に実現できないと思う。
何より大切なのは集客できるのはどのアクト?という問いではなくて、音楽含めた核となるコンテンツを咀嚼して、ターゲット層がアタッチメントを持ち得るStory Telling/ Context Makingを丁寧かつ継続的に行うことだ。これはイベント興行主だけで出来ることではないので、今のHCWの運営の在り方とは全く異なる部分になると思う。
では”先行投資”イベントの方はどうあるべきか?
全体のイメージとしてはHype Machine主催のイベント=<Hype Hotel>の大物アクトを排した感じ。と言ってもHypeHotelで大物に該当するアクトが日本ではそもそも大物にはならないわけだが・・・笑。
- ターゲット:シンプルに従来のHCWクラスタ+より耳の早い人たちも
- コンテンツ:ピュアにまだ知られてない良い音楽。まずはターゲット層からのレピュテーションをしっかり得られるラインアップの実現が優先。とは言え、レーベル契約が未定くらいのフェーズにあるアクトも厚めにし、攻めのラインナップにしたいところ。 会場は500-1500程度のキャパシティで十分だろう。
で、実現出来るの?
と勝手にツラツラと希望を書き連ねてみたが、これを実現するには、
- 幅広いレーベル横断のラインナップ構成
- 「Money Tree」イベントと「先行投資」イベントのキャパをちょうどよく満たす会場が二つ以上近隣にあるロケーション
- 今のHCWとは付き合いがなさそうなスポンサー集め
- 幅広いコンテンツを音楽クラスタから遠い層も考慮して届けることができる企画力
- イベント全体の空間設計力
- 継続的なイベントとしてFeasibleにするための収益マネジメント
等おそらく大分現状からストレッチが求められそうな要件であることは間違いない。またこれまでの諸々の音楽イベント系の商習慣とはコンフリクトが起きることも色々とありそう。(実際、よく分からないけど。) まぁでもいろんなトレードオフを乗り越えて何かを実現するのがビジネスでもあるので、是非頑張って欲しい、ホステスには。今回書いたようなことを実現し得るコンテンツを持ってるのってHostessが筆頭なわけだし。是非、何とかしてくれませんかね?
最大の不安はそもそもこんなニーズ自体、ほとんど無いだろうということ(笑)。 でも需要なんて応えるものじゃなくて、創るものでもありますから。
と一切ライブのレポート無きエントリでした!
【新・Weekly Music】HYPE MACHINEで見つけた素敵な音楽たち⑭
今週のイチオシ
Oh Wonder "Lose it"
またもやロンドンからのデュオ。ロンドンからの量産体制はいつまで続くのか・・・。このOh Wonderは 毎月新曲をリリースするというプロジェクトを開始したばかりだが、未だにこのデュオが何者かはよく分かっていない。
とにかくSoundCloudや彼らのHPで片っ端から聴いてみると良い。決して派手ではないが、素晴らしいポップ・ソングを聴くことができる。
今週の次点
Sharon Van Etten "I Don't Want to Let You Down"
先日の来日公演ではこの曲を含む7インチの発売についてコメントしたら観客からの反応がまばらでちょっとふてくされてしまったシャロン・ヴァン・エッテン。笑
世紀の傑作『Are We There』の非ギター・オリエンテッドなアプローチとは異なりどちらかというと前作『Tramp』を想起させるミドル・テンポのシンプルな構成のギター・ポップ。但し、歌詞については相変わらずぞっとするほど負の感情にフォーカスしているので要注意。笑
【年間ベスト】2014年「 極私的」年間ベスト・アルバム _ 『本当の私的ベスト・アルバム』編
とにかくこの2枚が全てだった2014年
ちんたらと足掛け丸2ヶ月も掛けてしまいましたが・・・「僕から見た2014年の景色」を定義する7つのパースペクティブのラスト『本当の私的ベスト・アルバム』編をようやく迎えました。2013年はVampire Weekendがぶっちぎりのベストでしたが、2014年は2枚をを選ぶことになった。甲乙付ける必要がない別の価値/魅力を持った2枚になります。
『本当の私的ベスト・アルバム』2枚
Sharon Van Etten『Are We There』(Jagujaguwar)
声、楽器、プロダクション、それら全てが完璧に噛み合ったときだけに起こる奇跡。それがこの『Are We There』という作品だ。紛うことなき、類して比するもののない圧倒的な傑作。シャロン・ヴァン・エッテンが持つ才能が最良の形、最良のタイミングで世に出た幸福な瞬間。2014年のベスト・レコードを他人の評で表すのはいかがなものとは思えど、自分の言葉では既に前に書いた。だからここでは<ピッチフォーク>のステファン・デスナーが記したこのレビューを紹介する。以下のテキストは何よりもこの作品の本質を物語っている。
つまり、「関係性」を定義させたり終わらせるのは重大なことが起こった瞬間ではなく、日々のルーティーン、積み重なる小さな犠牲である。他人と人生を共有することの厳しい現実だ。相手の最高な部分も最低な部分も、美しさも醜さも全て見えてしまう。この恐ろしく、素晴らしき現実に萎縮しない、そこが彼女の賞賛すべき点である。*1
<おすすめトラック>
M6. 「I Love You But I'm Lost」==>
Sharon Van Etten: I Love You But I'm Lost [1080p] (Jοοls Ηοllаnd) - YouTube
M10. 「I Know」==>
Sharon Van Etten - I Know - Later... with Jools Holland - BBC Two - YouTube
QURLI『PIER』(Victor Entertainment)
どこまでも素晴らしい音の鳴り。古くから存在した音楽を掘り起こしてきたようにも、30年後に作られる未来の音楽を聴いているようでもある。すっかり慣れ親しんだメロディーと耳慣れない旋律が少しずつ良い塩梅で織り込まれている。この音楽は現在に溶け込んだ過去であり、未来である。あらゆるものがそうであるように音楽もそれを十二分に楽しみ、慈しむには少しばかりの修練や時間を要するものだが、この音楽はその労を厭うことなく未知の何かを知りたいという欲求を喚起する。これらの楽曲が作られるのに使われた技術、また費やされた膨大な時間について思いを馳せてしまう。そして本来、無意味な音の波の集合に過ぎないはずの音楽に我々が様々な感情を喚起され、喜び悲しむことができるその素晴らしさと永遠の謎についてヒントをくれる、そんなレコードなのだ。
<おすすめトラック>
M5. 「Liberty&Gravity」==>
くるり-Liberty&Gravity / Quruli-Liberty&Gravity - YouTube
M14. 「There is」==>
くるり-There is(always light) / Quruli-There is(always light) - YouTube
【年間ベスト】2014年「 極私的」年間ベスト・アルバム _ 『すべての人々に語りかけ、チャートにも居座れたポップ・ミュージック』編
他者に分かりやすく語りかける音楽としてのポップ・ミュージック
僕はポップ・ミュージックの大きな役割の一つは「皆が思ってはいるけれどなんだかモヤっとしていることを"すっと"腹落ちさせること」だと思っている。 そしてすぐに話が通じそうな人にだけ話しかけることではなく、一番話の通じそうにないところへと語りかけること。そのために資本の荒波に飛び込むこと。それをやってのけるのがポップ・ミュージックではないか?
今、世界的にその胆力/ガッツがあるのは女の子ばかりのようだ。ここで紹介する4人のアーティストのうち3人はソロの女性シンガー(もう一人はセクシャル・マイノリティ)である。どのアーティストも複雑な時代に複雑なことをシンプルかつ大胆に言い切る力、そして同時にチャートのど真ん中に居座る音楽的なパワーを持っている。
ちなみにだが4人目に紹介するRyn Weaverを僕は2015年の間徹底的に推そうと決めています。(昨年でいうところのBANKS)
すべての人々に語りかけ、チャートにも居座れたポップ・ミュージック』4枚
1. Taylor Swift『1989』(Big Machine Records)
まるでThe Verve 「Bitter Sweet Symphony」のように「変われること」について真正面から歌う「Shake It Off」がやはりハイライト。でも"Bitter Sweet〜"みたいにウダウダ言っていない。テイラーにはもっと覚悟がある感じ。以前との変化を象徴するように音楽的には大胆にエレポップを導入。かといってサウンド自体に何か目を見張る先進性があるわけではない。 承認欲求の絡み合った泥試合が繰り広げられ続ける世界において「全員に自分が自分であることへの許可なんて貰っていられない」とまるでThe Whoの「Baba O'Reiley」同様のメッセージを感じる。そして彼女はひとりじゃない。LORDEや最近ではHAIMと頼もしい仲間たちが次々と彼女の隣を歩き始めている。
<おすすめトラック>
M1. 「Welcome to NewYork」==>
M6. 「Shake It Off」==>
2. Jessie Ware『Tough Love』(PMR)
「ダブステップ以後におけるR&B」を象徴するようにデビューしたジェシー・ウエア。極めてオーセンティックだったデビュー作から売れっ子プロダクション・チーム=BenZelを起用して、決して無理はせずに自然な発展として明確にポップに舵を切ったセカンドがこの作品。テーマは「報われない愛」について。ありふれたテーマではるが30歳で長い恋愛から遂に結婚を迎えたジェシー自身について、そして自分以外のストーリーを巧みに織り交ぜながら「誰もが関連づけられる」感情を歌っている。「それが求められているように感じるから」*1とジェシーは言う。「人々のために歌うアーティストでありたい」という彼女のポップ・アーティスト宣言といってもいい大きな第一歩。それを表すように自信漲るボーカルはより前に出て、アルバム全体にポジティブなヴァイヴが漂う。晴れやかで清々しく、力強い。
<おすすめトラック>
M2. 「You& I Forever」==>
M10. 「Champagne Kisses」==>
3. Sam Smith『In the Lonely Hour』(Capitol)
単独レビュー*2、そして上半期ベスト*3のときに予想したようにアメリカは彼に持っていかれた。そしてあれよあれよという間にグラミー6部門ノミネート(授賞式は間近)。来日公演も発売直後にソールド・アウトした。Disclosureにフックアップはされはしたが、彼の本質はシーンの潮流にある訳じゃない。ソウル、ゴスペル、ディスコ、R&B。オーセンティックな音楽フォーマットを存分に活用しながら「報われない巨大過ぎる愛」、「こぼれ出すエモーションを届けること」。歌詞だってある意味クリシェに溢れている。雑に言ってしまえば極めて「俗っぽい」訳。がしかし、それゆえにここまで広く受け入れられた。この立場と才能(特に声)を糧にどこまで行けるかは彼とリスナー、そしてメディア次第。
<おすすめトラック>
M1. 「Money On My MInd」==>
M2. 「Stay With Me」==>
4. Ryn Weaver『Promises EP』(Interscope Records)
2014年、僕はBANKSにベットしある意味当てた。そして15年はこのRyn Weaverにベットする。1年ほど前からHypeMachineでチェックしており「My要注意人物リスト」入り。しかもなんかプロダクション似てるなーと思っていたらまさかのジェシー・ウエアのセカンドと同じくここでもBenZel。いい仕事してますねーー! 本作『Promises EP』の発売とともに早速アメリカの国民的TVトークショー<David Letterman Show>にも出演。そしてそのパフォーマンスはあまりにも完璧だった。
女優を目指したが夢半ばで断念、音楽にシフトした22歳の彼女。見事な歌唱力と圧倒的な存在感は正直軽くBANKSを飛び越えて一気にブレイクの予感。衣装をヴァレンチノが提供したり、既にグラミーのプレ・パーティーでライブをしたりと恐らくマネジメントはかなり大きいところがバックアップしているということだろう。 本デビューEPは4曲構成。全くもって捨て曲なしどころかいずれも傑作級の完成度。 先に言っておこう、2015年はRyn Weaverの年になる。
<おすすめトラック>
M1. 「Promises」==>
M2. 「OctaHate(Live at David Letterman)」==>
M3. 「Stay Low」==>